私たちが日々目にする、本や名刺、ポスターに刷られた「黒」。その原料が何からできているのかを、意識する機会はほとんどない。
これまで焼却されてきたリサイクルが難しい企業や自治体の廃棄物を炭化し、黒色顔料へ。その企業だけのインクをつくり、印刷物として再び社会へ送り出す——。
2026年8月、株式会社GabとデザインファームPaper Paradeは共同事業「.Garbon印刷所」を立ち上げた。
なぜ、廃棄物からインクを作るのか。なぜ、いま印刷所なのか。
.Gab代表の山内萌斗、Paper Paradeの守田篤史さん、和田由里子さんに、その出会いと構想の原点を聞いた。
山内萌斗|株式会社Gab 代表(写真左)
社会課題をユニークに解くことを掲げ、ゲーム感覚のごみ拾いイベント「清走中」や、規格外・フードロス果物を活用した漬け酒キット「寝かせハイ」、エシカルな情報を届けるメディア「エシカルな暮らし」、リサイクル困難な廃棄物を炭化し素材として循環させる「.Garbon」事業などに取り組む。
守田篤史・和田由里子|株式会社ペーパーパレード(写真右)
グラフィックデザインを軸に、紙、印刷、素材、工芸、サステナビリティなど、異なる領域を横断するデザインファーム。屋外広告を新たな素材へ再生する「Re-OOH Project」や、紙製活字による活版印刷システム「Papertype」など、自ら問いを立て、プロジェクトを生み出している。
焼却されるには、あまりにも「きれいなごみ」だった
——まずは、.Gabがどのような会社なのか、そして今回の.Garbon印刷所にもつながる「.Garbon(ガーボン)」が、どのような問題意識から始まったのか聞かせてください。

株式会社Gab 代表 山内萌斗(以下、山内): .Gabは「社会課題や環境問題をユニークに解く」ことを掲げている会社です。社名には、“Garbage Breakthrough”——ごみ問題の打開策をつくる、という思いを込めています。
これまでさまざまな企業の廃棄物を見せてもらう中で、すごく違和感があったんです。
少し接着剤が付いている。表面に別の素材が含まれている。それだけで既存のリサイクルには乗せられず、見た目にはまだきれいなものが、跡形もなく焼却されていく。
「これを、もう一度資源にする方法はないのか」と考えたことが、.Garbonの出発点でした。
——そこで出会ったのが「炭化」だったのですね。
山内: はい。マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルも調べましたが、原料の純度、分別や洗浄、大規模な設備、再生後の需要など、循環させるにはいくつものハードルがありました。
そんな中で出会ったのが、大木工藝が長年蓄積してきた、廃棄物を炭にする技術です。
炭化は、単に燃やして灰にする焼却とは異なり、酸素がない状態で熱を加えることで、素材に含まれる炭素を炭として残す技術です。廃棄物を減らすだけではなく、残った炭の黒色や機能を活かしながら、新たな素材として活用できる点に可能性を感じました。
一方で技術があっても、できた炭をどう市場に戻していくかという「出口」をつくることが重要でした。
Gabにはこれまでエシカル関連の商品づくりやメディアを通じて、素材の機能だけでなく、その背景や物語をどう価値に変えて届けるかを考えてきた経験があります。
炭化技術と、素材の価値を社会へ届ける力。その二つが重なって生まれたのが、廃棄物を炭化し、さまざまな素材へ変えていく「.Garbon」です。


デザインを「受ける」側から、自らプロジェクトをつくる側へ
——続いて、Paper Paradeについても教えてください。もともとは、どのような活動から始まったのでしょうか。

Paper Parade守田篤史(以下、守田):Paper Paradeはグラフィックデザインを起点に、社会課題に向き合うデザインファームです。僕らはもともと、企業やスタートアップから依頼を受け、ブランディングやデザインを手がけてきました。
ただ、コロナ禍をきっかけに、受託するだけのデザイン事務所では限界があると感じたんです。社会課題を扱う人たちを外から支援するだけでなく、自分たちで問いを立て、企画し、事業にするところまで経験しなければ、その課題の本質には近づけないのではないかと。
そこから、廃棄された屋外広告を再生する「Re-OOH Project」など、自分たちでプロジェクトを立ち上げる活動が増えていきました。
Paper Parade和田由里子(以下、和田): Paper Paradeという名前にも、その姿勢が表れています。紙や印刷のものづくりは、デザイナー一人では完結しません。インキをつくる人、印刷する人、加工する人、製本する人がいる。
デザイナーを頂点に置くのではなく、みんなが同じ列に並んで、新しいものをつくっていく。その姿が、パレードみたいだなって。
今回の.Garbon印刷所もまさにそうで、炭だけでも、インクだけでも、デザインだけでも成立しないプロジェクトです。
数年越しの再会。1キロの炭から始まった実験
——以前から面識があったそうですが、そこからどのように.Garbon印刷所の構想が始まったのでしょうか。
守田: 山内くんとは、彼がまだ学生で起業したばかりの頃に一度会っていました。その時は軽く話したくらいで、「いつか一緒に何かやりたいね」という程度でした。
その後、.Gabが.Garbonレザーなど、炭化した廃棄物の素材化に取り組んでいることを知りました。話を聞く中で、山内くんが考えていたのは、単に炭化した素材をつくることではなく、その素材が持つ背景や価値をどう伝えていくかということでした。
それなら、Paper Paradeの知見を活かせるかもしれないと思ったんです。
和田: 私は以前、紙を炭化し、そこからインクをつくる実験をしていました。紙の種類によって、少しずつ違うグレーや黒が生まれる。山内さんがその展示を見て、「いろいろな廃棄物を炭にできるなら、全部インクにできるのでは」と感じてくれたそうです。
山内: 僕らも当時、さまざまな廃棄物を炭化し、素材化する取り組みを進めていました。ただ、炭を顔料として使うには、粒をどこまで細かくできるか、安定した状態で扱えるかなどクリアすべき課題がありました。
そんな中で、Paper Paradeが持っていた紙や印刷、インク化に関する知見が重なった。お互いの試行錯誤が、ちょうどつながった感覚でした。
守田: まずは.Garbonの炭を1キロほど預かって、粒度を測り、知り合いのインキ工場に持ち込みました。ただ、いきなり「未知の炭でインクをつくってください」と言っても、普通は断られます(笑)。
そこで、まず家で炭とワニスを混ぜ、手づくりのインクをつくったんです。完成品とは言えないけれど、「この方向ならいける」という筋は見えた。
それを持って工場に行き、「成功しても失敗しても費用は払うので、とにかく試してほしい」とお願いしました。


和田: 工場で試作してみると、一度目からかなりきれいな黒が出ましたよね。
守田: そう。想像以上に、ちゃんと“黒”だった。
いつも見ている黒が、ごみから生まれたら
山内: そのインクを見た時、僕の中で大きなブレイクスルーが起きました。
僕らは、本や教科書、名刺など、毎日たくさんの黒い文字から情報を受け取っています。でも、その黒が何からできているかなんて、ほとんど考えたことがない。
調べると、多くの黒インクには、石油などを原料につくられる黒色顔料「カーボンブラック」が使われている。つまり、私たちが日常的に目にしている「黒」は、実は炭素から生まれたものでもある。
それなら、その黒を廃棄物由来のものに変えられたら、ものすごく多くの人の暮らしの中に、資源循環との接点をつくれるかもしれないと思ったんです。
守田: そこから、「インクを開発して売る」だけではなく「印刷所をつくろう」という話になりました。
印刷物には、黒の由来や企業の思いまで載せられる。
.Garbon Blackは、単なる色や性能だけで語れる黒ではありません。どんな廃棄物から生まれ、誰の手を通り、何を伝える印刷物になったのか。普段は見えにくいサプライチェーン全体に、一つの物語がある黒だと思っています。

山内: どんなに環境に良い素材でも、それだけでは広がっていきません。環境への取り組みが正論や我慢ではなく、人の心を動かすものにならなければ、ムーブメントにはならないと思っています。
だからこそ、素材開発だけではなく、クリエイティブディレクションやデザインまで一緒に考えられるPaper Paradeと取り組むことに意味があると思いました。
素材の背景や、そこに関わる人たちの思いまで含めて価値として届けていく。そのために、独立した共同事業として「.Garbon印刷所」に取り組むことになりました。
——廃棄物を炭化し、素材として循環させる「.Garbon」。大切なのは、そこで生まれた炭を社会の中で使われる形に変えていく「出口」をどうつくるかだった。
廃棄物がどこから生まれ、どのような過程を経て、誰の手を通り、新たな価値として社会へ戻っていくのか。その背景や物語まで含めて届けていく。
その出口の一つとして、黒インクと印刷物を通じて価値を届ける「.Garbon印刷所」が始まった。
後編では、廃棄物がどのようにインクになるのか、第一弾に活版印刷を選んだ理由、そして二社が語る「エモい黒」に込めた思いを聞く。
取材・執筆・撮影:相馬由季