企業や自治体から出た廃棄物を炭化し、黒色顔料「.Garbon Black」へ。
前編では、株式会社GabとPaper Paradeが出会い、1キロの炭からインクづくりを始めた経緯、そして「.Garbon印刷所」が生まれるまでの背景を聞いた。
後編では廃棄物がどのように印刷物になるのか、なぜ第一弾に活版印刷を選んだのか、そして、.Garbon印刷所が印刷物の先に描く循環のあり方を掘り下げる。
山内萌斗|株式会社Gab 代表(写真左)
社会課題をユニークに解くことを掲げ、ゲーム感覚のごみ拾いイベント「清走中」や、規格外・フードロス果物を活用した漬け酒キット「寝かせハイ」、エシカルな情報を届けるメディア「エシカルな暮らし」、リサイクル困難な廃棄物を炭化し素材として循環させる「.Garbon」事業などに取り組む。
守田篤史・和田由里子|株式会社ペーパーパレード(写真右)
グラフィックデザインを軸に、紙、印刷、素材、工芸、サステナビリティなど、異なる領域を横断するデザインファーム。屋外広告を新たな素材へ再生する「Re-OOH Project」や、紙製活字による活版印刷システム「Papertype」など、自ら問いを立て、プロジェクトを生み出している。
「捨てる」から「素材として戻す」へ
——改めて、企業から出た廃棄物が.Garbon Blackになるまでの流れを教えてください。

山内:まずは企業から廃棄物について相談をいただき、その素材が炭化できるものかを確認します。
基本的には、炭素を含む有機物が対象です。衣類や食品残渣、プラスチックを含む複合素材など、これまで分別や再資源化が難しかったものも対象です。
金属などは炭にはなりません。ただ、少量混ざっているからといって、必ずしも最初から諦める必要はありません。炭化後に残ったものを分け、炭の部分を活用できる場合もあります。
素材の構成によって判断は変わるので、まず相談していただきたいですね。
守田:複数の素材が組み合わさっているものでも扱える可能性があるのは、大きな特徴ですよね。
従来のリサイクルでは、きれいに分別できることが前提になりやすい。でも、実際の廃棄物は複数の素材が混ざっていたり、少し汚れがあったりするものも多い。
そこに対して、炭化という方法で新しい可能性をつくれることは大きいと思います。
山内:そうですね。廃棄物を炭化して生まれた炭を細かく粉砕し、黒色顔料にします。そこへワニスなどを加えてインク化し、印刷物へ展開していく。
単に廃棄物を処理するのではなく、もう一度社会で使われる素材へ変えていくことが、.Garbonの考え方です。
効率からこぼれ落ちた技術が、未来の循環につながる
——第一弾の印刷方法として、なぜ活版印刷を選んだのでしょうか。

和田:私は以前から、紙でつくった活字を使う「Papertype」という制作を続けてきました。その中で活版印刷の現場を訪ねる機会があり、職人の高齢化や設備の減少によって、技術そのものが失われかけていることを知りました。
一度なくなった技術を、後から復活させるのは簡単ではありません。昔の印刷機には図面が残っていなかったり、使い方を知る人がいなくなったりする。
効率だけを理由に手放してしまえば、表現の選択肢まで失われてしまうと思ったんです。
守田:普通に考えたら、いま新しく印刷事業を始めるって、かなり変わっているんですよ(笑)。
でも、終わりかけていると言われる産業が、現代の廃棄物問題を考えるきっかけになるとしたらすごく面白い。
和田:活版印刷は、紙や資源が今ほど豊富ではなかった時代に生まれた技術だからこそ、資源を無駄にしない考え方が残っている部分もあります。
それが、.Garbonの考え方と重なりました。
山内:廃棄物から生まれた黒を最初に表現する方法として、活版印刷はすごく象徴的でした。
一方で、活版だけに限定するつもりはありません。今後はオフセットなど、量産に適した方法にも広げていきたいと思っています。
理想だけではなく、コストも含め企業が実際に使える形にしていく。そのバランスを取りながら、印刷できるものを広げていきたいです。
「環境に良いから、この程度でいい」にはしない
——.Garbon Blackの開発で、品質面ではどのようなこだわりがありましたか。

守田:サステナブルな素材は、ときどき「環境に良いのだから、見た目や品質は多少仕方ないよね」と扱われてしまいます。
でも、.Garbon Blackをこれからの黒として提案するなら、そこは絶対に妥協したくなかった。目指したのは単に濃い黒ではなく、見た時に「強い」と感じる黒です。
マットな質感や佇まいまで含めて、魅力のある黒にする。僕はそれをよく「エモい黒」と呼んでいます。
和田:原料によって、ごくわずかに赤みや黄みを感じることはあるかもしれません。ただ、一般の人が見て分かるほど大きな差ではなく、印刷に必要な品質は一定に保つ。
その上で、わずかな違いも、その廃棄物から生まれた黒だけの個性として捉えています。
山内:まず、黒として求められる品質や機能を担保する。その上に、企業ごとの廃棄物の由来や、そこに込められた思いが重なる。そこが.Garbon Blackの価値だと思っています。
名刺やカレンダーが、企業の物語を伝える媒体になる
——企業が、自社から出た廃棄物を使って印刷物をつくることには、どのような意味があるのでしょうか。

山内:まず、これまで焼却していたものを炭化し、もう一度素材として使うという環境的な価値があります。
ただ、現段階ではまだ小規模な取り組みなので、コストが大きく下がることを約束するサービスではありません。
一方で、もう一つ大きいのがコミュニケーションの価値です。例えば、自社の廃棄物からつくった名刺を取引先に渡す。展示会でノベルティとして配る。カレンダーとして一年間、相手のオフィスに置いてもらう。
そうすると、企業の環境への姿勢を、説明資料ではなく、実際に触れられるものとして伝えることができます。
守田:どこかの再生素材を使うだけでは、その会社との関係性が見えにくいこともあります。
でも、自分たちの事業活動から生まれたものを、自分たちの手で新しい価値に変えていくなら、そこにはその企業だけのストーリーがある。
山内:印刷物にQRコードを付けて、もともと何の廃棄物だったのか、その背景まで伝えられる仕組みも考えています。
ものをつくって終わりではなく、その素材が生まれた背景や、そこに関わった人たちの思いまで含めて届けていく。それが.Garbon印刷所の役割だと思っています。
例えば、長年使った建物や、役割を終える店舗の内装を捨てる時って、単なるごみとは言い切れない感情がありますよね。
そこには、そこで過ごした人たちの時間や記憶が残っている。それを炭にし、記念の印刷物として次につなげることもできる。
環境負荷を減らすだけではなく、企業や人が積み重ねてきたものを、別の形で未来へ残していく。その価値も大切にしたいと思っています。
700枚の印刷物でつくった、数十秒のアニメーション
——発表時に公開されたアニメーションも、活版印刷で制作されたそうですね。


和田:活版印刷は、版の位置を少しずつ変えながら、一枚ずつ違うものを刷ることができます。
印刷物は本来、同じものを複製するためのものですが、今回は一枚として同じものがない。約700枚を少しずつ動かしながら刷り、スキャンして、コマ撮りのアニメーションにしました。
守田:和田が刷った一枚一枚を僕が受け取り、全体の構成やリズムを組みました。
音楽は東郷清丸さんにお願いしています。彼は音楽家になる前、印刷工として働いていた経験がある方です。
さらに、楽曲の中には活版印刷機の音も取り入れています。
アニメーションも、印刷も、音も、すべて.Garbon印刷所の背景につながっている。表面だけを飾るのではなく、これまで関わってきた人たちや技術の積み重ねの上に、意味のあるデザインを重ねたかったんです。


山内:数十秒の映像の中に、何百枚もの.Garbon Blackの印刷物と、そこに関わった人たちの仕事が閉じ込められている。
背景を知らずに見ても成立するけれど、知った後には見え方が変わる。その体験自体が、僕らのやりたいことを表していると思います。
役割を終えた後まで、黒の物語をつなぐ
——最後に、.Garbon印刷所を通じて、これからどのような未来をつくっていきたいか教えてください。

守田:このプロジェクトの「エモさ」は、廃棄物から黒をつくり、印刷物にしたことだけにあるわけではないと思っています。
まず「この廃棄物をどうにかしたい」と考えた企業の担当者がいて、炭化する人、インクをつくる人、印刷する人がいる。その全員が一つのチームとして、思いのバトンをつないでいる。そこまで含めて伝えていかないと、このプロジェクトは続いていかないと思うんです。
今回完成したロゴや映像、最初の印刷物は、事業全体のデザインでいえば、まだ5%くらいだと思っています。
これから企業との取り組みが増え、回収や再利用の仕組みが育ち、社会の中で循環するシステムになっていく。残りの95%は、10年、20年かけて一緒につくっていくものだと思っています。
例えば、配り終えたカレンダーを回収し、もう一度炭化して次の印刷物へつなげる。
企業だけではなく、受け取った取引先や配送事業者まで含めて、関わる人が増えながら循環していく仕組みをつくりたいですね。
和田:印刷というと、フルカラーが当たり前だと思われるかもしれません。
でも、黒だけで刷られたものにも、これほど多様な表情や魅力がある。
これから.Garbon印刷所から生まれるプロダクトを通じて、黒そのものの価値観が少し変わったらうれしいです。
山内:人類は、黒によって思想や感情、情報を記録し、文化を刻んできました。
だからこそ、その黒がどこから生まれ、役割を終えた後にどうなるのかまで考えたい。
石油由来の黒から、廃棄物由来の黒へ。一方向に消費して終わるのではなく、役割を果たした後も次へ循環していく黒へ。
「.Garbon Black is the Next Black」には、これからの新しい黒をつくっていくという意思を込めています。
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——名刺として手渡され、ノベルティとして持ち帰られ、カレンダーとして一年間、誰かのそばに残る。
その背景を知ったとき、黒はただの色ではなく、ひとつの選択と循環を宿した物語になる。
二社が語る「エモさ」とは、遠くにあったはずの廃棄物の行方が、一枚の印刷物を通して、自分の手元までつながってくる感覚なのかもしれない。
.Garbon印刷所は、まだ始まったばかりだ。
これからさまざまな廃棄物がそれぞれの黒となり、誰かの手へ渡っていく。
その黒が何から生まれ、何を伝え、役割を終えた後にどこへ向かうのか。
そのすべてを問い直しながら、.Garbon Blackは黒の歴史を塗り替えていく。
取材・執筆・撮影:相馬由季